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2021年3月にBeepleの作品が高値で落札されて以来、NFTアートが注目されています.
私もNFTマーケットプレイスにGPSアートを出品しています.日本のGPSアート界隈では目立った動きがないですが、海外ではGPSアートとNFTアートに関する議論が始まっています.

時代の流れに乗り、これからGPSアートをNFTアートとして販売するアーティストが追随するはず.NFTアートに参入したGPSアーティスト第一号の立場から、売り手(アーティスト)と買い手(購入者)両方の視点で情報を整理しました.
出品・購入前にぜひご一読ください。

NFTアートの特長

決済

暗号通貨決済のマーケットプレイスがほとんどです.売り手と買い手の両方で、暗号通貨ウォレットの保有が前提となります.
※ 一部マーケットプレイスで例外あり.

NTFアートの販売・転売による利益は、暗号資産と同様に「雑所得」になります.年間(1月~12月末まで)で20万円を超える所得が発生した場合、確定申告が必要です.
ただし、NFTアートを自ら作成・売却するしている場合等には、「事業所得」や「譲渡所得」などになる可能性があります.
さらに、取引のタイミングによっても計算方法に多様な解釈があります.確定申告の際は、税務署や税理士など専門家への相談をおすすめします。
※ 現物美術品転売による所得は譲渡所得とみなされ、譲渡所得税が発生します.
※ 事業規模で売買を繰り返すと事業所得とみなされ、事業所得税が発生ます.

事業所得総収入金額ー必要経費
譲渡所得譲渡価額ー(取得費+譲渡費用)ー特別控除額
雑所得総収入金額ー必要経費

二次流通

現物アート作品と異なり、二次流通時にも制作者にロイヤリティが支払われます.

二次流通時に発生したロイヤリティは、所得になります.確定申告の際、申告漏れにご注意ください.

法規・ルール

NFTは、日本の法律では金融商品になりません.従って、金融業界の常識や規制が適用されません.投資目的で金融商品と同じような感覚で購入しないようご注意ください.
主な注意点は下記.

セキュリティ基準が曖昧

金融業界には独自の安全対策基準が設けられていますが、NFTマーケットプレイスの安全基準は定まっていません.特に金融業の知見がない企業が扱うマーケットプレイスは、セキュリティの押さえどころを理解していない可能性があります.
プラットフォームの選定は十分にご注意ください.

自作自演で人気や相場を操縦しやすい

循環取引や同一人物による複数アカウントによって、自作自演で容易に人気を演出できます.金融商品では相場操縦として禁じられた手法も、NFTアートでは可能です.つまり、販売実績をうたった作家がいたとしても、自作自演リスクが潜在するため本当に売れているとは限りません.
また、プラットフォームは手数料ビジネスのため、取引成立が増えるほど儲かる仕組み.自浄作用や法規制がない限り、このような見せかけ行為が止まらないと思われます.
NFTアート購入者は、出品者にこのような不正がないかチェックし、実際の取引状況を確認した上での購入を推奨します.

プラットフォームの種類

プラットフォームによって特色はありますが、出品側として押さえる点は、「取引の盛んなジャンルか」「ターゲットになりそうな購入者層が多いか」「出品者が登録制か」「購入者による利用可能範囲」です.

「登録制か否か」は、出品者の信用に関わります.人気作品を中心に偽アカウントや贋作・コピーが多い傾向です.本来ならそのようなアカウントは存在してはいけませんが、対応が間に合っていないのが現実です.
アーティストの自衛手段としては、審査に通過しないと登録できないマーケットプレイスへの出品が比較的安全です.審査のハードルがありますが、アーティストのブランド力に直結します.できればお勧めしたい方法です.
また、購入者は、「出品者が本人か」「出品作品が本物か」を見極める必要があります

市場について

購入者層

NFTマーケットプレイスの購入者層は、アートマーケットで知られたアートコレクターや、GPSアート愛好家と異なる傾向です.暗号通貨(特にETH)大量保有者が、さらなる値上がり益を見込んで購入するケースが多いです.黎明期から少ない元手で暗号通貨を大量保有しており、情報感度が高く、年齢は比較的若い傾向です.

出品者層

著名なNFTマーケットプレイスに限ると、出品者はグラフィックデザイナーやアニメーターといったデザイン関係者が多く、純粋なアーティストは少ない傾向です.投稿作品の大部分は、アートの文脈で語られていない作品が主流.これが、購入者層が異なる原因と思われます.
なお、高額落札で有名になったBeepleは社会風刺を作品に取り込んでいるため、アートの文脈でも語られています.この点から、BeepleはNFTアートと同じ文脈だけで評価できないと考えられます.

ファインアート系NFTマーケットプレイスも市場への進出が始まっており、アーティストの大部分はここからの出品が増加すると思われます.ただし、登録アーティストは事前審査が必須です.
アーティストにとって、審査のハードルを越えることが進出への第一歩となるでしょう.

GPSアートNFTに関する留意点

著作物全般にも当てはまる点は多々ありますが、GPSアート特有の情報にフォーカスしました.

権利の確認

通常マーケットプレイスでは、利用規約で権利侵害品の出品を禁じています.

アプリと地図

InstagramやFacebook、Twitter等のSNSでシェアされるGPSアートは、基本的にスマホアプリで生成した画像や動画です.SNSでシェアする程度なら差し支えありませんが、販売の場合、商用利用に該当し使用範囲が限定されるケースがほとんどです.
主に「アプリのサービス会社」と「地図の提供会社」の利用規約に違反しないよう留意が必要です.特に地図は、同一サービスでも表示地域により著作者が異なるため規約も異なります.より詳細な調査が必要です.

モチーフ

創作物全般にもいえますが、モチーフが他者の権利を侵害しないよう注意が必要です.
他人の著作物を無断でNFT化し販売すると複製権、自動公衆送信権、譲渡権等の侵害になります.また、他人の著作物を改編してNFT化しても翻案権や同一性保持権等を侵害するかもしれません.

購入者の利用範囲

アーティストが著作権を保有する場合、購入者の利用範囲を自由に決められるのが通例です.ただし、NFTアートはマーケットプレイスの利用規約に縛られます.マーケットプレイスごとに異なるので必ず確認をお願いします.
また、この点は現物アート作品と同じですが……アーティストは、購入者による利用可能範囲を明確にする必要があります.明確にしておかないと、購入者の利用方法によってはトラブルの元になります.
一方、購入者は、著作権者(通常はアーティスト)からの許諾がない限り複製や配信等ができない点にご注意ください.

実踏の証明

執筆時点の2022年3月時点では、流通するGPSアートのほとんどは「GPSデータを利用した二次生成物(画像・動画)」です.地図に線を引くだけで類似品を制作できてしまうため、実際に移動した証明(GPSデータ等)がないと作品の希少性を担保できません.
アーティストには、実際に移動したことを証明できるエビデンスの準備を推奨します.

価値の証明

作品はデジタルデータであるため、複製が容易です.同一作品や類似作品の更なるNFT化により価値の陳腐化リスクがつきまといます.
作家本人が作成したことを証明するのは当然ですが、発行部数(エディション)管理にもご注意ください.

そもそも、芸術の価値とは?

昨今、NFTアートが注目される一因に「高額取引が成立した(高値で販売された)」という事実があります.高値で価値を演出したり関心を引く方法は、ブランドマーケティングでよく使われます.現在は「NFTは儲かる」という現代版ゴールドラッシュのような雰囲気は否めませんので、出品や購入の際は、芸術作品の本質「作品の芸術的価値を所有する」「芸術家の世界観に投資する」といった感覚を忘れないでください.

まとめ

一般向けにはまだ始まったばかりの仕組みですので、業界全体で試行錯誤が続いています.
グレーゾーンや不正など注意点は多く、作品クオリティも玉石混交の状況.慎重に精査の上、出品・購入をお願いします.

文章全体はネガティブな印象を受けるかもしれませんが、私自身は、NFTアートを世に定着させたい、普及したいと考えています.良い部分と注意する部分、両方を知ったうえで参入すべきです.
GPSアートとの親和性は未知数ですが、テクノロジーの発達により、より利便性の高いメディアになると予測しています.GPSアートをより多くの人に体験いただけますと幸いです.